受験勉強法学 Examics

すべての教科に通じる論理的思考については、LAADを参照せよ。[説明詳細]

■勉強法コラム

均衡ある演繹法・帰納法的学習



要約

 勉強をする際には、問題を解くための前提となる一般的・体系的な知識と理論を身に付ける演繹法的学習と、それらを個別具体的な問題を通じてその知識と理論を自分で扱えるようにする帰納法的学習を上手く組み合わせる必要がある。演繹法的学習は知識や理論を自明であることを前提に一般化・体系化して統合していくインップット的学習である。帰納法的学習は問題演習を通じて個別具体的な事項に分解する分析・観察力を養成するアウトプット的学習である。前者はその性質故に時間をかけて勉強する割合が高くなるが、後者は一度解いた問題は何度も触れて経験を多く行うことが肝要となる。いずれも短い時間でよいので定期的な復習を日々の学習に取り入れることが必要となる。両学習法は別個に独立したものではなく相互に関連し合い補足する関係にあるため、バランスよく目的意識をもって勉強することを心掛けなければならない。


 勉強を行う上で、演繹的な学習と帰納法的な学習を段階を追って上手く組み合わせる必要がある。演繹法と帰納法は大学で学問を行う上で必ず必要となる科学的な手法だ。大学入試のための受験勉強においてこれらがどのように活用されているかを考えることで、日々の勉強の指針となる。そして、その考え方の習得は大学入学後の学問にも必ず役に立つものだ。そこで、演繹法的学習と帰納法的学習を検討して、どのように利用するべきかを考えたい。なお、演繹法と帰納法について知らないものは文章の最後に簡単に説明を附しているので参照されたい。
 ここで述べる演繹法的学習と帰納法的学習では伸ばすべき能力が各々異なる。そして両学習法は荷車のようなものである。知識・理論を載せつつ志望校へと向かうには両車輪を回していく必要がある。どちらかの車輪が大きければその場で円を描くだけであり、片方がなければ非常に不安定で進むことはままならない。バランスよく両輪を回していかなければならない。


 演繹法的学習とは、様々な問題を解けるようになるための前提となる基礎的な知識と理論を身に付ける勉強を行うことだ。入試問題を解くためには知識や理論が必要なのは言うまでもない。演繹法的学習では全ての知識や理論を最初から正しいものとして学んでいくことになるため、新しく理解して覚えることが多くなる。一つ一つの分けられた知識を順を追って論理的に勉強していくことで、一般的で体系的な理論や方法論を身に付けることができる。演繹法的学習
 大学で修める学問と違い受験勉強の楽な点は答えや理論が最初から設定されていることにある。学問は理論(仮説)の正しさを証明する必要があるが大学受験ではこれが既に正しいものと証明された(とされている)ものを学習するからだ。所与とされる理論から様々な知識や新しい理論を導出していき、これを学ぶことが受験勉強における演繹法的学習となる。

 演繹法的学習の目的は体系的な知識と理論の習得にあるが、これが勉強の最初の段階であることは容易に理解できるはずだ。いきなり問題演習を通じて知識を断片化させて身に付けては効率が悪い。とある知識がある1科目の理論の中でどういった位置づけにあるのかを体系的に学習する方が理解度や記憶の定着度で優れているからだ。演繹法的学習を通じて受験勉強に必要な知識と理論を習得することは、入試問題を解く学力を得るための最初の一歩である。そして、この学習は勉強を進めて行く内に何度も繰り返すことで理解を深めて、さらに体系化と一般化をしていく必要がある。

 演繹法的学習においては教科書や解説が詳しい参考書等が勉強の中心となる。網羅性の高い教科書や参考書を読み込み理解することで、知識を整理して体系化する。ある理論が説明される中で、どのような位置づけにあるのか等をしっかりと理解して覚えていくためだ。
 演繹法的学習は全ての科目で行うことになる。英語でいえば文法・構文や単語、そして英文解釈や読解の方法論だ。国語でいえば読解法や古文文法や句形や語彙だ。数学や理科でいえば公式や定理、典型問題の解法だ。社会科も単なる暗記だけでなく体系的に知識を整理する点で演繹法的学習をすることになる。
 演繹法的学習の概要を説明した所で気付いた者もいると思うが、これはいわゆるインプットの学習といえる。問題を解く上で必要な知識と理論を仕入れるからだ。

 勉強中に新しい知識や理論が唐突に現れて、他と関連性を見出し難い場合もあり得る。その際には、それは新しい別個の分野の知識や理論であると割り切る必要もある。また勉強を進めて行く中で関連性が分かる場合も多々ある。受験勉強は所与の正しいとされている結論を勉強していくものなので、その知識や理論がどのように実証(証明)されたかという背景や何故必要になったのかまで余りに深入りしないことが多い。教科書や参考書では結論ありきで解説されることが多いため、疑問に思うことも多くあるかもしれない。
 確かに探究心・知的好奇心は大事であり大いに持つべきであり、それ自体は賞賛に値する。しかし、全ての事項についてまで細かく勉強することはできないと割り切る所は割り切らなければ勉強時間がいくらあっても足りなくなるので注意が必要だ。勉強の力を入れる所をしっかりとつける必要がある。そうした何故やより深い背景は大学に入ってから勉強すればよく、そもそもそうした背景等は大学レベルの高度な理論や知識が必要になるために省かれていることも多い。受験レベル逸脱した勉強を受験勉強時間に行うのは得策でない。あくまで趣味の余暇時間等にするようにしなければならない。

 こうした演繹法的学習を通じて習得した問題を解く上で前提となる知識や理論はそれ自体問題として問われることも確かにあるが、肝要なのはこれらを用いていかに問題を解くことができるかという学力だ。演繹法的学習は理論・知識先行型の勉強する、つまり予め答えや結論を与えられており、それについて勉強するということになる。ゆえに何の分野の理論や知識を使うかが明白である。
 しかしながら、実際の入試問題において、この問題はこの分野の知識と理論について問うていると言われることはない。演繹法的学習のみでは理論や知識を説明できても、問題にどの知識・理論をどのような適応すればよいか、といった点で非常に弱くなる。これは結論ありきの学習が理想的な形での問い方や他の分野の可能性を排除した形で進んでいくためだ。


 そこで習得した知識と理論を前提にしつつ、何の分野の知識や理論を問うているか、どのように適用すべきなのか、といった個別具体的な問題を分析して経験を積む勉強が必要になる。つまり演繹法的学習の逆の勉強を行うことになる。

 帰納法的学習とは、問題演習等を通じて入試実践力を身に付ける勉強を行うことだ。演繹法的学習で仕入れた一般的で体系的な知識や理論を問題演習を通じて自分でそれらを扱えるようになるのことが目的だ。帰納法的学習では、個別具体的な問題を通じて、一般的・体系的な知識と理論を利用できるように経験を積んでいくことになる。
 入試問題には必ず正解・正答がある点では、演繹法的学習と同様に、結論を先取りする形で勉強を進めて行けるのは確かだ。しかし帰納法的学習の特徴は、問題演習を個別具体的な知識・理論を自分の既知の一般的なものに当てはめていくことにある。これは演繹法的学習が、一般的・体系的な知識・理論から入って他の知識・理論を導出していくのと逆の手順である。

 この帰納法的学習の目的は一般的で体系的な知識や理論を個別具体的な問題に自分自身で適応できるようになることだから、問題演習を多く積んでいくことになるのは当然の帰結だ。問題演習を通じて、断片化された個別具体的な問題から一般的な体系的な知識を引き出していくことになる。帰納法的学習
 この勉強は経験的であるから慣れが重要となる。問題を分析して個別具体的な事項からどの一般的・具体的な知識・理論が問われているのかを気付く必要がある。慣れて気付くことが重要であるからこそ多くの経験を積む必要が生じる。というのも何事も1回で習得することは困難だからだ。

 そして、全ての教科で行う実践的問題演習はこの帰納法的学習である。英語では、確かな文法・語彙力と解釈・読解の方法論を前提とした読解や解釈、英作文の実践的な問題演習だ。国語では、方法論を前提に実際に読解して解答を作り上げることだ。数学や理科では、定理・公式と典型問題の解法を前提として応用問題を解くことだ。社会でも知識を前提に情報を的確に選択することだ。
 帰納法的学習の概要を説明した所で気付いた者もいると思うが、これはいわゆるアウトプットの学習といえる。演繹法的学習つまりインプットで仕入れた知識と理論を実際に自分で使用できるかを確認するからだ。

 この帰納法的学習では個別具体的な問題に対応する必要があるということは、観察・分析する際に問題文と設問を細かく分析しなければならない。特に問題文と設問の緻密な観察・分析は難関大学になればなるほど重要となってくる。
 一見複雑に見える問題も、一つ一つのまとまりに分解していくことで、色々な分野のどの知識・理論が問われているかが見えてくる。そしてそれらが同時にどのように組み合わさって問われているかを把握することで、書くべき解答も自然と絞られるようになっていることに気付けるようになる。この技術は経験に依る所が大きいので、いくら一般的・体系的な知識・理論があっても伸ばすことは難しく、実践的な問題演習を通じて養っていく他ない。


 以上のことから分かる通り、次のような順序で勉強を進めて行けばよいことが分かる。すなわち、勉強の最初の段階で演繹法的学習を行い、前提となる基礎的な一般的な体系的な知識と理論を身に付け、帰納法的学習で観察力と経験を積む。そして帰納法的学習で勉強した断片的で個別具体的な知識・理論は、再度の演繹法的学習で一般化し体系化した知識・理論に還元して強化する。知識・理論について、帰納法的学習は個別具体的に分解して観察・分析することを指向するのに対して、演繹法的学習は一般的・体系的に統合することを指向している。

 両学習法ともに復習が重要なのはいうまでもないが、次のような最初の勉強と復習方法の違いが生じる。

 演繹法的学習が知識・理論を一般化・体系化することを指向し、かつ理解した上で記憶することが重要となるので、まとまった時間をとる必要がある。一番最初の勉強時にまとまった時間で勉強をする必要があるのは当然として、それ以後の復習の時にもある程度まとまった時間を用いてじっくりと勉強する必要がある。細切れの時間では多くの知識・理論を一般化・体系化することは困難だからだ。
 そして理解がしっかりできてからは、知識・理論が忘却されないために何度も復習する段階に移る。短い時間でもよいのである程度の定期性と計画性をもって復習を繰り返し行う。

 帰納法的学習が知識・理論を個別具体的に分解して観察・分析することを指向し、かつ実践的な問題演習を行うことが重要となるので、演繹法的学習以上に何度も同じものを経験する必要がある。最初に問題演習を行う際には、まとまった時間をとって問題を解く必要があるが、復習する際にはどこに注目して問題を解くべきか、設問の読み方、採点基準・要素の確認等に注意しながら何度も行う必要がある。これは実際に問題を1から解き直す必要はなく、英語や国語ならば本文に文法事項や解答の根拠になる箇所等を書き込んでおき何度も読み直すことで行えるので、短い時間で何度も回すことができる。経験がモノを言うので、何度も反復して問題の特徴を押えられるように多く触れる必要があるからだ。
 そして最後復習から1カ月程度おいてからもう時間をとってもう一度問題を解く。問題の要点を覚える程復習していても、実際に時間をおいて解いてみると意外にも解けなかったり、同じ誤りをすることはしばしばある。これは先入観(勘違い)が問題を客観的に見れていない、または経験不足、弱点となっている証拠なので、また重点的に復習するようにする。


 このように勉強をするといっても2通りの学習方法があり、演繹法的学習と帰納法的学習のいずれがかけても学力が伸びないことが分かっただろう。必ずしもきれいに分類できるわけではないが、各勉強がどちらに属しているかを意識し、どのように勉強をすべきかをしっかりと意識して行うことが肝要で、勉強計画を立てなければならない。


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演繹法と帰納法とは

 演繹法とはアリストテレスやデカルトに代表される推論法だ。正しいとされている、つまり一般的・普遍的原理を前提にして、個々別々の特殊な事柄の正しさ、結論を導出する方法だ。

 その中でも特によく使用されるのが三段論法だ。
大前提
 ↓
小前提
 ↓
結 論
:ヒトは必ず年をとる(真)
   ↓
:私はヒトだ(真)
   ↓
:私は必ず年をとる(真)

 例として「私は必ず年をとる」という仮説を証明する。「ヒトは必ず年をとる」という大前提がある。「私はヒトだ」という小前提がある。この大小両前提から「私はいつか年をとる」という結論が証明される。ここでは大前提と小前提は常に正しいものとして扱われていることに注意してもらいたい。
 このように前提が正しい限りそれによって導かれる結論も常に正しくなるという特徴がある。仮に前提が正しくない(偽)ならば結論は正しいと証明されなくなってしまう。

 当節で紹介している演繹法的学習は、教科書や参考書を通じて、この正しいとされている前提を多く仕入れていく作業となる。そして1つの前提から導かれていく多くの事象を理解していくことでもある。


 帰納法とはベーコンやロックに代表される推論法だ。個別的で特殊的な事例から、一般的・普遍的原理(法則・規則)を見出す方法だ。いくつもの事例を観察することで経験的に正しいとされる一般的・普遍的原理を導出する。
事例1
事例2
事例3
事例4
 ↓
結 論
:ヒトであるアリストテレスは年をとった(真)
:ヒトであるデカルトは年をとった(真)
:ヒトであるベーコンは年をとった(真)
:ヒトであるロックは年をとった(真)
    ↓
:ヒトは必ず年をとる(真)

 例として「ヒトは必ず年をとる」という仮説を証明する。1つ1つの個別的な事例を観察していくと、「ヒトであるアリストテレスは年をとった」「ヒトであるデカルトは年をとった」「ヒトであるベーコンは年をとった」「ヒトであるロックは年をとった」………、とヒトとされる生命体は(調べられる限りでは)必ず年をとっていることが観察された。したがって、多くの個別特殊的な事例から「ヒトは必ず年をとる」という結論、つまり一般的・普遍的原理が導出され正しいことになる。
 ただし、帰納法では事例が真であるとはいえ、結論が必ず真になるとは限らない。そして「年をとらないヒト」が観察されると結論の一般的・普遍的原理が否定されることにもなる。帰納法は蓋然性を示すことしかできないことが多い。

 当節で紹介している帰納法的学習は、個別具体的な問題演習を通じて、どういう事例にどの知識・理論を適用するべきかを分析・観察して経験を積む作業となる。個別具体的なものが一般的な知識・理論を示していることをしっかりと見分けられるようにならなければならない。


 演繹法が正しいとされている一般的・普遍的原理を前提に様々な結論を導出しているが、前提とされる一般的・普遍的原理は帰納法によって正しいと証明されていることが分かるだろう。そして、帰納法で個別特殊的な事例から結論を導き出す時には演繹法がその推論を補助していることも分かる。演繹法で結論を先ず考えて帰納法でその正しさを証明することが多くあるからだ。
 このように演繹法と帰納法は全く逆の手順を踏んでいくことになるが、両者は対立するものでなく相補的な関係にある。

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