受験勉強法学 Examics

すべての教科に通じる論理的思考については、LAADを参照せよ。[説明詳細]

■勉強法コラム

「暗記」事項の「自動化」



要約

 「暗記」を行う際には、暗記事項を有無を言わずに丸ごと記憶する「丸暗記」を必要最低限に抑えて、論理や理論を理解して記憶する「理解暗記」で覚えていく必要がある。しかし、「理解暗記」の状態に止まっていては、暗記事項を思い出すのに時間を使うために、試験時間内に問題を解くことが難しい。そこで、暗記の「自動化」、つまり「理解暗記」した事項をほとんど考えずに反射的に思い出すまで反復暗記することが重要となる。暗記の「自動化」まで行うことが「暗記」したということである。


 
 量に多少の差はあれど、どの科目も勉強は暗記をしなければいけない。暗記しなければ、その語句自体を問う問題に答えられないのは当然として、思考力を問うような問題についても思考力以前の前提がないので勿論解けない。そこで受験生は、一生懸命になって暗記を行うのである。
 一口に「暗記」といっても、単純に知識を増やしていくだけに終わるものではない。ここでは問題を解くにあたっての「暗記」について考えてみたい。勉強ができ成績が良い者は、多かれ少なかれ、意識的にしろ無意識にしろ、以下で述べることを実践していることがほとんどである。暗記はしたのに問題が解けず成績が振るわないという者は、「暗記」について自己の学習を見直してもらいたい。ただし、ここで述べる「暗記」は暗記術や暗記方法といったものではなく、「暗記した」ということがどういうレベルであるのかを言い、試験時間内に問題を解くために必要な暗記についてを論じていることに注意してもらいたい。


 先ず暗記と言えば、最初の段階は「丸暗記」である。「丸暗記」は、暗記事項を有無を言わずに丸ごと記憶することである。赤子が言葉を覚える時に親の真似等をして意味も分からず覚えていくようなものである。確かに、勉強では「丸暗記」しなければならないものはある。しかし、「丸暗記」のみで勉強していると覚える量の多さに絶望して勉強を投げ出すことになる。また、幸いにして「丸暗記」できたとしても、問題を少し複雑にされたり見方を変えて出題されると、解答を見たときには確かに暗記した事項なのに解けなかったという結果になる。「丸暗記」は、暗記した通りに出題されれば解けるが、奇抜ではないにしても変則的な問題や応用的な問題に対して非常に弱くなる。

 そこで、理解して暗記する「理解暗記」が勉強する中で重要になってくる。昨今の大学受験では、解説が詳しく、背景知識や理論の根拠をよく押えた参考書が多く出版され、理解しながら暗記していくことが容易になっている。多くの者は、「丸暗記」ではなく、「理解暗記」を中心にして、基本的な知識を暗記しようとしている。「理解暗記」は、基本事項の定義や因果関係等を理解しながら暗記していくので、忘れにくく、かつ応用問題にも対応できる。成績を伸ばす上で必須の勉強法といえる。

 しかし、「理解暗記」を行い、入試で合格点を取る上で十分な知識を暗記しながらも、成績がある程度伸びた段階で伸び悩む者がいる。試験時間以内に問題を解き終えることができない、時間があれば解けた問題がある、こうした状態になる。この段階になると、問題処理能力を上げることが必要となる。そこで、「理解暗記」で伸び悩む者は、問題演習を積むことで問題を解くことに慣れて、問題の読解速度と解答作成速度を向上させて難関と言われる志望大学に合格できる学力を養成するのである。
 この「理解暗記」と問題演習を積むことで問題処理能力を上げる勉強を行ったとき、そのまま志望大学に合格する者と不合格になる者がいる。この違いについて、応用問題、発展問題が解けるか否かという視点からではなく、「暗記」ということに絞って違いを見てみる。


 そもそも同程度の理解と暗記量であったとして、試験時間以内に問題を解き終えることができるか否かの問題処理能力の違いは何を原因としているのであろうか。理解力と暗記量の問題でないとなると、暗記の質が重要になってくる。
 暗記の質の違いとは暗記の「自動化」である。暗記の「自動化」とは、「理解暗記」した事項をほとんど考えずに、無意識に、反射的に使用できることである。この暗記の「自動化」は「理解暗記」をするだけでは当然には身に付かない。「理解暗記」したことを反復して暗記することで「自動化」するのが一般的である。成績が良い者は、天才を除いて、「理解暗記」を何度も反復して反射的に暗記した事項を想起できるように勉強している。

 例えば、スポーツや武道でも練習を重ねて「自動化」を行っている。野球の打者を思い浮かべてもらいたい。試合でヒットを打つための練習で打撃フォームを固める素振りがある。このとき、漫然と素振りをするという者は馬鹿か何も知らない素人だろう。内角の球を打てるようになるなりたいとする。先ず頭の中で腕をたたみ腰を回転させながら軸を意識して打つという内角の打ち方をイメージして、素振りを何百本、何千本と重ねて、頭で考えた通りのスイングができるまで練習する。実際に球を打つ時にこのようなことを考えなくても反射的にできるように素振りをして型を形成するのである。空手の型も同様である。

 暗記の「自動化」もこれと同じことである。「理解暗記」で暗記事項を覚えて忘れてしまっても論理や理論から導き出せるようにしておく段階は、内角の打ち方を頭で理解して覚えた段階である。これだけでは、球を見て頭で考えてフォームを気にしながら打てる位の現実では想定し難い遅い球は別として、実際の試合で打てることは普通はないのと同様ように、実際の入試問題では時間が足りなくなる。反射的に練習したスイングができるように体に覚えさせて慣れる素振りの練習が必要なように、勉強でも「理解暗記」したことを反復して「丸暗記」するかのように慣れることが必要である。こうして暗記を「自動化」したら、ちょっとした応用問題や変則的な問題にも瞬時に対応でき試験時間内に解くことができるようになる。


 それでは、暗記の「自動化」を行うにはどうすればよいのか、と思うだろう。上の例示からも分かる通り、反復暗記である。「理解暗記」したことを何度も何度も反復して暗記することで反射的に答えられ程に覚えることである。

 それは結局のところ「丸暗記」なのではないか、という疑問が生じた者もいるだろう。「丸暗記」は、最初に述べた通り、暗記事項を有無を言わずに丸ごと記憶することである。「理解」して覚えたことを前提としている点で、この暗記の「自動化」と「丸暗記」は異なる。一度「理解暗記」を行って覚えたことを何度も覚えるのであるから、「丸暗記」よりも負担が少なく忘れ難いのは当然として、「理解暗記」である故に応用が利かないということもない。そもそも、暗記の「自動化」は、一度覚えたものを呼び出す速度、反射速度を上げることであるので、「丸暗記」とは全く異なる。ただ、「理解暗記」したことを反復して暗記するため、「丸暗記」と似た面を持つことまでは否定しない。

 「丸暗記」ではないとしても、「理解暗記」した論理や理論まで反復して暗記して反射的に答えられないといけないのか、その勉強はかなりの負担になるのではないかという疑問があるだろう。反復暗記する中で、「理解暗記」で用いた論理や理論はある程度覚えられるので、不必要に量の多さを恐れることはない。また、論理や理論もある程度覚えるつもりで暗記した方が、知識を体系化したり応用力を付ける意味ではそちらの方がよい。基礎的な理解ができていれば応用問題は解けるという一般的な言説は、暗記の「自動化」が行えている状態を指していると私自身は考えている。

 「理解暗記」から暗記の「自動化」を行うべきなのは理解したが、一体どこまでを「自動化」して、どこから暗記ではなく思考力を使って問題を解くのか、という疑問があるだろう。最低でも教科書レベルの知識については、暗記の「自動化」を行うことが必要である。中堅大学なら教科書レベルの暗記の「自動化」で十分に対応できる。そして、難関大学を目指すならば、各科目の典型的な発展問題、応用問題についても、暗記の「自動化」を行えば十分である。発展問題や応用問題については、大体は教科書と典型問題の知識を組み合わせたりして解ける。この組み合わせ方は暗記の部分もないではないが、あれこれ様々な可能性を想定しながら思考力を用いることで解く様にする。ごく僅かな者しか解けない難問は、そもそも解けなくてもよいので、これで東京大学や京都大学といえども十分合格点を取れるようになる。


 問題を見て解き方を考えたとき、暗記の「自動化」を行っていれば、問題の特徴を分析して、反射的に瞬時に同様の論理や理論から必要な暗記した知識を導き出して解き方を検討していく。基礎的な問題ならそれこそ文字通り反射的に即答して、応用問題でも典型問題なら反射的に解答の手順を導き出す。知識を組み合わせて思考力を問うような応用問題なら、問題の特徴から必要となりそうな知識を即座に呼び出して、どのように組み合わせるかを考える。
 仮に「理解暗記」までの段階に止まった場合、基礎的な問題にしろ典型的な応用問題にしろ、問題の特徴を分析しながら、何が必要かを論理や理論から必要となる知識を呼び出すことに時間がかかる。これでは時間制限がない場合に問題を解くことはできても、時間制限のある入試では時間が不足なることは必至である。


 一般的な暗記の「自動化」の重要性を解いたので、各科目の具体的な「自動化」について見てみる。

 英語なら、「理解暗記」が英文解釈で英文構造を取り方を暗記することなら、暗記の「自動化」は文頭から読んで理解できるようになるまで暗記することである。倒置や関係代名詞等が複雑に絡む文は、文頭から理解することは一般的な大学受験レベルでは難しいので、英文解釈を行いながら構文を取るが、構文が倒置のみだったりする場合にも倒置した文かと思いながら文頭から読み進めていけるようなレベルまでに暗記を「自動化」しておく。当サイトの勉強法に則るのなら、『新・基本英文700選』の反復暗記が「自動化」にあたる。

 数学なら、「理解暗記」が定理、公式、解法パターンを暗記することなら、暗記の「自動化」は問題を見た瞬間に必要な解法を導き出せるまで暗記することである。「理解暗記」の状態では典型的な応用問題ですら問題を分析しながら解法を当てはめていくが、「自動化」した状態では典型問題は反射的に解くので時間は取られない。思考力を問う応用問題については、問題を分析してある特徴を何個か見つけたときに特徴に当てはまる解法を瞬時に導き出して組み合わせていく。「理解暗記」では特徴からさらに論理と理論が当てはまるものはないか等を模索するので余計に時間がかかる。必要十分な暗記の「自動化」の目安としては『青チャート』を「暗記」することである。
 数学以外にも理系科目である理科も同様に、解法や公式、典型的な応用問題は、暗記の「自動化」を行うことが求められる。

 国語も暗記の「自動化」は重要である。現代文では、因果関係や対比等を意識する論理的な読み方を覚えることが「理解暗記」であり、論理的な読み方を無意識に自然とできるまで行えるようになることが「自動化」である。古文や漢文も、助動詞や助詞、句形を活用しながら解釈することを覚えることが「理解暗記」であり、解釈を見た瞬間に把握することが「自動化」である。国語は解答の根拠を見つけ出し答案としてまとめることが得点を取るために必要なので、その根拠を発見する前提の暗記事項で時間を浪費しないようにするために「自動化」しておかなければならない。

 社会は論述問題以外は、暗記したことをそのまま答えていくことになるので、時間がなくなることは少なく、暗記の「自動化」を行う必要性は他の科目に比べて少ない。しかしながら、論述問題が主になる場合、必要な要素の取捨選択して解答をどうまとめるかに時間が重要となる。教科書レベルの語句は流れや因果関係や論理等とともに「自動化」することが必要となる。


 以上のように、「暗記」といっても、「丸暗記」、「理解暗記」、「自動化」があることが理解できたであろう。そして、問題を時間内に解くために必要な実践的な「暗記」とは、「自動化」されているものである。勉強をして「暗記」する際には、「理解暗記」を最初に行った後は、反復暗記による「自動化」まですることが重要となる。限られた受験勉強期間では、全てを暗記の「自動化」を行うことは難しいだろうが、繰り返して暗記するときに「自動化」することを意識して勉強を行うことをすすめる。


 勉強法コラムトップへ戻る
トップページへ戻る
ページのトップへ戻る
 


Copyright 2012-2019 受験勉強法学 Examics. All Rights Reserved.

inserted by FC2 system